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イラク日本人誘拐殺害


イラクで日本人の旅行者、香田さんが誘拐殺害された事件についての雑感。今までもイラクで日本人の死者は出ていますが、これまでは半分突発的な事故死のようなものでした。しかし、今回は明確に日本人が標的にされ、殺されたという点で、イラク戦争に加担している日本人はさらに危険が高まっていることが、より一層浮き彫りになったように思います。

今回の香田さんの行動でまずかった点はいくつかあると思いますが、今入ってきている情報から (不正確なものもあるかもしれませんが) わたしが感じた点をあげておきます。ただし、行動にまずい点があったからと言って、それが日本政府が香田さんを見殺しにしてもよいことの理由にはなりません。

  • イスラム圏に入るのに、イスラエル入国の痕跡を残した

今でこそイスラエルの隣国のエジプトやヨルダンは、パスポートにイスラエル出入国のスタンプがあっても、入国が可能ですが、基本的にイスラム圏への旅行に際しイスラエル入国の証拠は消しておくものです。入国拒否にあう国もあります。このことは中近東を旅するバックパッカーには半ば常識で、ガイドブックにもイスラエル出入国の際には、別紙にスタンプを押してもらう旨が書かれていたと思います。

  • 短パン、Tシャツ、長髪

イスラムにおいては、女性が肌を出すことはよいことと考えられていないのは割と知られていると思いますが、男性も女性ほどではありませんが肌を出さない方が望ましくあります。世俗化が進んでいるトルコでさえ、モスクへ入るときに男性が膝の出る短パンをはいている場合には、膝を隠す布を貸してくれます。わたしの友人がイスタンブールのイラン領事館でビザを申請したときになかなか発給されなくて、何がまずいのか地元の人に相談したところ、短パン姿だった友人は「君はその格好でビザを取りにいっているのか。それじゃダメだ。次は長ズボンをはいていきなさい」と言われ、次の日に助言通りにしていったところ、すぐにビザがもらえたということもありました。

何の後ろ盾もないバックパッカーは、より現地の文化・習俗に敬意を払って行動する必要があると思いますが、この点でも甘かったと言われてもしかたないかもしれません。

  • 所持金1万5千円

香田さんがイラクへ入ったときの所持金は、100ドルちょっとだったとか、1万5千円くらいだったとか言われています。それしか持ってなかったのか、強盗などに襲われる危険を考えて敢えてそれだけしか持っていかなかったのかわかりませんが (ただし、一介の旅行者がお金を預けられるようなところがあるとは思えないので、後者の可能性はないと思います)、この所持金の少なさも無謀と言われてもしかたのないところかもしれません。

バックパッカーは基本的に貧乏旅行をしていますが、お金を使わないのと、お金を持っていないのは違います。異邦人であるバックパッカーであるからこそ、いざというときのためのお金は必要になってきます。よく命の次に大事なパスポート、という言われ方をしますが、これは全くの間違いで、お金を出せば再発行できるパスポートよりは、最寄りの日本大使館へたどり着いたり、いざというときに脱出するためのお金はかかせないのです。

  • 野宿?

宿が見つかれなければ野宿すればいい、というようなことを言っていたという情報もありますが、これも信じがたいです。外国でも場合によっては野宿は可能です。わたしはインドの駅で世を明かしたことがありますが、このときは他に大勢のインドの人たちと一緒でした。単純な野宿はほとんどの国で危険を伴います。ましてや警察機構などまともに機能しておらず、ただでさえ治安の悪いイラクです。野宿が可能だと思っていたのならあまりにも楽観的と言わざるを得ません。

百聞は一見にしかずと言いますが、紛争地帯であっても自分の目で確かめてきたいという気持ちは、わたしもあちこちを旅行していたのでよくわかります。実際に肌で感じてみなければわからないことは多いし、紛争地帯と言っても町ならそこには市民の生活があるし、最前線でもなければ24時間どんぱちやっているわけではないので、訪れてみれば緊張感はあっても意外に落ち着いていることは多いのです。(ただ、それはリスクのコントロールをしなくてよいということにはなりませんが)

今回の香田さんは、ボランティアやジャーナリストといった「大義」はありませんでしたが、大義があれば行ってもいいというものでもないし、大義がないから行ってはいけないというものでもないと思います。すべての危険を伴う行動に大義が必要だとしたら人間はここまで発展したでしょうか。また、危険を伴うことをするのがいけないことだとしたら、スクーバや登山といったスポーツすらしてはいけないこととなるでしょう。

香田さんの落ち度云々は今後話題にあがってくるかもしれませんが、国家が国民を助ける義務はそれとは別のところにあります。そもそも国民の生命と財団を守ることが国家の存在意義なのですから。国内でのことを考えれば、どんな形、些細な形であっても、助けが必要になれば警察や消防が要支援者を見殺しにすることはあり得ないでしょう。

小泉首相は最善を尽くした、と言っていますが、とてもそうは思えません。今度、香田さんを誘拐した武装組織は残虐で人質は助かる見込みはなかったというような情報で政府の責任をごまかそうとする動きがあるかもしれませんが、それが事実でも政府の責任逃れにはならないことを忘れず、国民として日本政府の責任を考えていかなければいけません。

Posted: 火 - 11月 2, 2004 at 03:17 AM               Hatena Bookmark



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