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これから旅に出る、または出ようかと迷っているあなたへ

この文章をこれから旅に出るすべての人に捧げます.

人を堕落させるのは権力ではなく、恐怖である.権力を失うことへの恐怖、屈辱を味わうことへの恐怖、投獄されることへの恐怖、生活の糧を失うことへの恐怖‥‥.そうした恐怖が人々を堕落させてゆく.恐怖がはびこればいかなる社会であっても堕落はあらゆる形で深くその社会を侵す.‥‥私たちは単に自由や民主主義を叫ぶだけではだめで、誠実さを維持するための自己犠牲と、恐怖から生じる堕落に対して抵抗を貫き通す強い決心が必要である.

アウンサン・スーチー『恐怖からの自由』より

日本の社会において、1年や2年以上に渡る長期の旅行に出かけることは、なにを意味するでしょうか.
わたしが旅に出ていたとき、学生の休暇の時期を除いて、出会った旅人たちは 休学した学生か、そうでなければ仕事を辞めて旅に出てきた人たちばかりでした. 中国の呼和浩特(フフホト)で同室になったドイツ人と話していて、なにかの折に ふと、僕は日本社会じゃアウトサイダーみたいなもんだ、ともらしたら、その彼も、 僕だってドイツじゃアウトサイダーだ、と言ったのをひどく覚えています.

ひとにもよるかもしれない−しかし、わたしには旅に出るということはひどく勇気のいることでした. 今ではどうってことのないことだと思えるようになりましたが、その今でも完全にその恐怖から逃れられたかになると、自信がなくなるときがあります. 誰にでも迷いはあると思います. 旅に出るのではなくても、誰だって未知の世界に踏み込むのは恐いことでしょう. その迷いを振り切って旅に出るからには、みんな何らかの思いはあるのだと思います.

しかし、旅に出ると決めてはみても
旅に出ることは、なんになるのか?
旅に出なければ、それは果たせないのか?
などという考えが、旅に出る自分の足を鈍らせます.

旅に出なくても、求めているものは得られるかもしれません.
しかし、旅に出ることによって、その求めているものが より得やすくなることはあると思います.

旅は世界という鏡に自分を映すことだと、わたしは思っています.
いったん、旅に出てしまえば、すべての問題は自分ひとりで解決しなければなりません.
日本で自分がどんな組織にいたか−だとか、どんな学校を出たか−だとか、こんなものを持っている−だとか、そういった外面的なことはなんの役にも立ちません.
友達も親も恋人も、だれも自分を助けることはできません.
そういったものを取り除いて最後に残った自分だけで、人は旅を続けていかなければなりません.
それはある意味では、とても恐いことだと思います.
しかし、そういったいわばノイズとでもいうような部分を取り去った自分を、世界という鏡に映してみれば、虚飾ない等身大の自分の姿が照らし出されるのだと、わたしは思います.

苦しいこともあります.
つらいこともあります.
あまりの自分の情けなさに、自分が嫌になってしまうこともあります.
そういったものをすべてさらけ出し、自分の姿を見つめることで、自分の探しているものが見つかりやすくなると思うのです.

今までの安寧な道を外れて、一歩踏み出すのは大変なことだと思います.
しかし、その一歩を踏み出せたものだけが、その先にあるものを見ることができるのかもしれません.
踏み出さなければ、それがあるかないかもわかりません.
たとえそれがないのだとしても、ないというそのことを確かめるだけでも良いのだと、わたしは思います.

自分が進むべき方向を間違えていなければ、運命が自分を後押ししてくれるものです.
合理的には説明できないのですが、このことを知っている人は世界中に何人もいます.
今は亡きマザーテレサもその一人だったと思います.
自分を信じて出かけて見て下さい.
きっと素晴しい世界が待っていると思います.
少なくとも、あのときどうして旅に出なかったのだろう、と後で思うことのないように.
気を付けて.
良い旅を.

わたしが旅の中で出会ったすべてのひとに感謝して

1997年9月24日


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